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2008/11/28 (Fri) 土曜に耳鳴る越境 (前編) - 解離性障害・OD -

カウンセリング(◇金曜に濁る私と清い世界(前編)  ◇(後編))の翌日の土曜日、病院へ行った。

医者は、私を解離性同一性障害だといった。カウンセラーは、解離性障害だが解離性同一性障害とは違うといった。食い違いが、苦しくてたまらなかった。何でもいいから診断名も含めて、治療方針を定めたかった。今のままでは、もう1日も耐えられない。
明日自分が生きているかの保障もない。


診察券をなくしていたから再発行を頼み、診察時間までいつもどおり散歩に出かけた。
普段より酷い気分なのだな、と歩きながら自覚する。
世界中が色褪せてしまったか、私が色褪せてしまったかのどちらかだ。歩くスピードに合わせ、風景が他人事に流れていく。陽射しは私の肌の表面を温めるが、木枯らしは私の骨を芯から冷やす。
単なる物体である私。
目の前を通り過ぎる車の流れに放り捨ててしまおうかと何度も考える。考えても考えても、午前中の明るい日差しが思考を遮断して、また私を思考しない物体に変えてしまう。
そうして、ただてくてくと歩き、花屋の店先に並べられたポインセチアを眺めたり、古い家屋の木戸に当たる日と影を眺めたり、文房具屋で修正テープを買ったりした。
来た道を、またてくてくと歩いて戻った。靴擦れしやすかったパンプスが、やっと私の足に馴染んだのか、それとも身体が無感覚なのか、妙に全身が軽くて、乾ききった海綿体のように頼りなかった。


診察室に入り、医者のN先生に、カウンセリングの進度や<あや>について簡単に話した。
診断名は何ですか?と訊くと「解離性同一性障害」とN先生は答えた。
わけが分からなくなった。医者とカウンセラーの見立ては「解離性障害」という点で一致しているが、私が最も憎む<あや>については何1つ解決しない。10年近い治療の末に、やっと私が誰なのかがわかってきた気がしていたのに、やはり私は自分が誰だか分からない「解離性障害」なのか。
健常な人は、一体どんな自我を保っているのだろうか。物心ついた頃から解離性障害の私には、想像もつかない。自分の顔、身体、名前、声などを、自分のものだと疑いを持たず違和感も持たずにいるというのは、どんな感覚なのだろう。

医者の見立ては、医者の見立てだ。
これまでも、医者とカウンセラーの見立ては食い違ってきた。だから、私はその間を取っていようと保留し続けてきた。
<あや>は、存在するが存在しない。私は、私であるけれども私でなくなるときもある。
そんなふうに中立を保ってきたが、最も苦しい私こそが中立でいられるわけがなかった。保留し続け、自分の上に起こる現象をあったような、なかったような曖昧なラインに留め続け、考えまいとする姿勢にも限界が来ていた。

どうすれば治るんですか?と医者を詰問したが、「薬では治りません」が答えだった。私は、誰よりそれを知っていた。せめて頓服の量を増やして欲しかった。渋々1錠だけ増やしてくれた。
薬で人格障害は治らないし、この虚無感も孤独感も埋められはしない。それでも、生きていくために薬が必要だ。とりあえず自分のうちに帰り、1人の部屋で1人でいるにしても薬がなければ今の私には不可能だ。

医者に頭を下げて、診察室を出た。
その横にあるベッドに5分でいいから横になりたい、と咄嗟に思った。見知らぬ他人でもいいから、誰でもいいから声が聞える場所に少しでいいから横たわっていたかった。そうしたら、また少し頑張れる気がした。

けれど、鈍い私の足取りはそのままそこを素通りした。疲れてはいるが横たわる程でもなく、単に寂しいだけなのだと思った。


帰りは、酷い無気力に襲われていた。
目の前には、希望もなければ、不満もない。ただ現実が無言で横たわっているだけで、私は最早言葉もない。「苦しい」「寂しい」「どうにもならない」そんな言葉を発したところで、応えてはくれない。絶望とは、いつも無言で、私当人のささやかな感想すら受け付けてはくれないのだ。


家に戻り、サイドブログの作品作りに没頭しようとするが、意識が散漫で定まらない。自分自身を形なく消滅させたくなる。消したいと思っている私自身を、言葉で縁取ることに何の意味があるだろう。そこに私はいない。もしくは見つけた瞬間に、私は抹消せずにはいられないだろう。


私が病院へ行っている間に、コメント欄にコメントが増えていた。一人物からのものだ。次々と舞い込んで来る。数日前に突然訪れ、突然私のことを何もかもわかっているかのように語り、一言も交わしたことのない私を絶賛していた人物が、一転してこき下ろしへと急変していることに脱力した。
テキスト通りの理想化とこき下ろしは、当初からの予想通りだ。
私が反論したことに対する反論も、予想通りのセリフの羅列。
どうしてこうもある種の人間は、獣道のように同じパターンを辿るのか。
BPD(境界性人格障害)の私は、この行動パターンはうんざりするほど見てきている。同じ匂いというものは、すぐに分かる。
対象恒常性の欠如だ。
全て受け入れてもらいたい、受け入れてもらえるはずだと考え近づく。しかし、受け入れてもらえそうにないと知るや、お前など下らない断罪してやると理不尽な怒りにかられる。0か100、白か黒の行動パターンが、よりによって私のブログのコメント欄で繰り広げられていた。

現実の私は、解離性障害が最も重くのしかかり、息も絶え絶えに家に戻ってきたのだった。
そんなコメントを書き込むビジターは、相手は誰でも同じことなのだ。私でなくても良いのだ。依存とは、そういうものだ。人間すらも道具に変えて、自分の不満や不安にうまくパチリと嵌め込める対象を求めているに過ぎない。

相手になどしても仕方ない相手だが、私のブログのコメント欄に書き込まれていること、第三者の読者の方達への影響を思うと、反論だけはきちんとしておくべきだと思った。朝方に書いた記事は、そのためのものだったが、同時に相手からの攻撃を予想はしていた。覚悟して帰ってくるべきだったが、虚無感に占拠されて失念していた。


書き込まれたコメントに一応目は通すが、断言と攻撃と屁理屈と無作法、目に余る言葉の羅列。
普段ならば平気だっただろう。
今このタイミングで、私のことを何も知らない人間が、さも知っているかのように意見する。しかも意見でもなんでもなく、意見という形をとっただけの私怨、私情、依存。分かってもらえるはずという甘え。口の汚さ。
人間性の低さに、眩暈がした。
何もかもうまくいかず自分自身をまず立て直さなければと必死でしがみついていたタガが外れてしまった。
パニックに陥った。


ひとりの部屋で、泣き喚いた。
死にたいと殺してやりたいと生きたいが同時に私を襲った。
中でも最も頭に来ることは、患者を馬鹿にされたことだった。
「ボーダーは死のうとはするが本気で死にはしないから大丈夫」などと書かれたが、知人がボーダーで命を失ったばかりだ。私自身も、死にかけている。救命救急の現場でも、ボーダーの衝動的自傷行為が原因で死んでしまう患者が増えている。
本気であろうが本気でなかろうが、人は死ぬときは死ぬのだ。

コメント欄は、私のブログだが私だけのものではない。公開され第三者にも読まれることを想定せずに書かれたものは最低だ。配慮がなさすぎて傲慢で礼儀知らずでクソだ。
ボーダーで苦しむ当事者も、そのことで大切な人を失った人も来るこのブログに、「ボーダーは死ぬふりはするけど死なない」など、よくぞ書いたものだと腹が立って腹が立って仕方なかった。


泣き喚き、苦しくて苦しくて怒りで暴れまわっていたが、そのうち思いつく先にメールしたり電話したりし始めた。無意識だった。
繋がった友達が、1時間後にはそこに行くよと言ってくれた。
言ってくれるなり、私は大丈夫な気がした。「大丈夫。ちょっとおかしいけど大丈夫」と断ったが、友達は救急車を呼ぶと言った。
普段人を頼ることがない美鳥だから、電話してきただけで十分に限界を超えている、手助けしようとすると自分で出来るからと遠慮するのは美鳥のパターン、という友達の判断だった。

私は、わけが分からなくなっていた。確かに、今まで1人で耐えられていたはずのものが今日は耐えられない。一分も生きていることが耐えられない。泣き喚いても泣き喚いても終わらない苦痛、静まらない怒りや憎しみや絶望に耐えられない。


◇土曜に耳鳴る越境 (後編)に続きます)


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Author:美鳥(みとり)
被虐待サバイバー。解離性同一性障害、うつ病、対人恐怖症ほか色々闘病中。境界性パーソナリティ障害寛解しました。毎日の光と影を綴ります。生育歴・来歴・病歴・活動はこちらをご覧下さい⇒<はじめに Profile>

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