--/--/-- (--) スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

スポンサー広告 |


2008/01/08 (Tue) つたなき貴石

数年前、気紛れにスイッチを入れたテレビ画面で、
私は、はじめて彼らの存在を知った。
インディーズアーティストを紹介する深夜のテレビ番組だった。
番組は既にエンドロールが流れ始めていて、
彼らの曲を、私は、ほんの数十秒しか聴けなかった。
しかし、それだけで、十分だった。

一切飾り気のない喋り言葉のような歌詞。
穏やかでいて、熱っぽい歌声。
心臓の鼓動のような力強いドラム。
透明な空気を、どこまでも突き通していくようなギターの音色。

体温が瞬間に上昇し、鼓動が速まり、胸苦しくて涙が溢れたのを、
昨日のことのように覚えている。


たった数十秒のフレーズを、私は忘れることができなかった。

彼らが、「くるり」という名で、
私がそのとき聴いた曲は、彼らの代表曲「東京」だと、後になって知った。


「くるり」のボーカルの声は、心地よい。
穏やかで優しく、力強くて、静かだ。
独り言のように、宛先のない手紙を読むように、うたう。
でもその中に、人間くさい不安定な揺らぎが、ふと混じる。
彼は、知っていて、そうしているのだと思う。
心をかき乱される。

「東京」に描かれるのは、平板で鬱屈した日常。
東京の灰色の空。
姿の見えない懐かしい君。
胸でつぶやくひとりごと。

・・・・・・・・・・・・・・・・

君がいない事 君と上手く話せない事
君が素敵だった事 忘れてしまった事

ついでにちょっと君に電話しようと思った

君がいるかな 君と上手く話せるかな
まぁいいか
でもすごくつらくなるんだろうな
君が素敵だった事 ちょっと思い出してみようかな

            (「東京」くるり 作詞・曲 岸田繁)

・・・・・・・・・・・・・・・

全て、現在進行形で語られるのに、
なぜか「東京」を聴く私の心は、いつも過去に連れ去られ、
失っていないようで失ってしまった、
何か大切なものへの狂おしい郷愁で胸をかきむしられる。
声が途絶えた空白を走る、人の声に似たギターの音色が、
私を追いたて、追いかけてきて、疾走する音に息が切れそうになる。
美しくて不安定で、力強くて儚い。


「東京」を聴く度に、
私は、はじめて聴いたときと同じように泣いてしまう。
最初のギターの旋律が流れ出す瞬間、
昼の気まぐれで憂鬱な雨が、私の心に降ってくる。
灰色の空と、ぽつぽつと降りかかる雨が、
退屈な日常や、東京の雑踏、掴めそうにない遠い夢、
遠くにいる愛しい誰か、過ぎ去ったものへの悲しみ、
すべてを灰色に塗りこめていく。
なのに、灰色の景色の中に、何かが明滅している。
遠い遠い星のように、ずっと輝く光が見える。



音楽でも絵でも映画でも小説でも、素晴らしい作品は、
輝く二つの星のような目を持っている。
自らの前に立つ人間を、じっと見返し凝視する目だ。
その目に見つめられると、私は魂を持っていかれるような不安に襲われる。
怖いのに、美しくて目が逸らせない。
逸らしてしまえば、天上への道を見失ってしまう。
だから、私は動けなくなる。

ある絵画展の1枚の絵の前で、1時間程立ち尽くしていたことがあった。
魅入られて、絵の世界に魂を奪われた。
人生の最後には、この絵を眺めながら死にたい、と思った。


そんなふうに私を跪かせ、地に頭を垂れさせ、
私の心を余すところなく征服し、蹂躙する作品、
その作品を生み出した創作者が、私は、ときどき怖ろしい。
これを畏怖と呼ぶのか、畏敬と呼ぶのか、
感情の正体すら分からなくなる程に。


私にとって「東京」は、届かない星のように、特別な存在だった。
ああ、「くるり」は天才だ。
神様に見出された天賦の才がある。
こんな曲誰にも作れやしない、と
聴く度に私は震え、怯え、陶酔するのが常だった。



「くるり」が、インディーズバンドとして、
最初に出したアルバムは、この世に1000枚しか存在しない。
その中に収録された一曲が、この「東京」だった。
彼らの実力を世に知らしめ、
メジャーデビューする契機となった。

音楽好きな友人から、
このアルバムの音源が
手に入ったから聴いてみないか、といわれた。


最初は断った。
全く今の「東京」とは、違うと聞いたからだ。
今の「東京」だって、滅多に聴かない。
大切に、大切にしたいから、特別なときにしか聴かない。
そんな私にとって、完成品にこそ価値があれど、
未完の下書きになど興味はない。
10年前の未完の「東京」を聴けば、きっと私は、がっかりするだろう。
今大切にしている「東京」すら、違う曲に聴こえてくるかもしれない。
それだけは、嫌だ。

しかし、天才たる彼らの原点への興味は、押さえられなかった。
一度だけ、聴いてみようと思った。


メロディーラインは、ほとんど変わっていなかった。
ボーカルの彼の声も、歌い方も、変わっていない。
ギターは相変わらずせつないし、
曲の構成も殆ど変わらない。
唯一確かに変更されたものといえば、
歌詞の言葉数と、バンドの音数だった。
それだけでも、10年前の「東京」は、
言われたとおり今のそれとは、全く違う曲だった。


楽器やボーカル、それぞれの役割が定かでない。
それぞれが狂おしい感情を迸らせ、
パワーはあるが、足並みが揃わず、暴走ぎみだ。
才能が光っているが、どこか洗練されていない印象を受ける。
音楽というよりは、音楽に乗せられた、
抑えようのない衝動的なメッセージ。
10年前の「東京」は、確かに光る目を持っているが、
両の目とも閉じられて作品の内側にこもり、
外側に弾き出された私を、どこかへ完全には連れ去ってくれない。

私の中に、灰色の東京の空が広がり、
雑踏に冷たい雨粒が降りかかるが、
雨が沁みこむ前に、饒舌なギターと冗長な歌詞が、
高熱を放って雨粒を乾かしてしまう。

それでも10年前の「東京」は、とりわけ力があって胸を打つが、
今の「東京」を知る私には、どうしても全く別のものに聴こえた。
輝いているが、つたない。
力があるが、あと少しで届かない。



ああ、「くるり」は神様じゃなかったんだ、と私は震えた。
私と同じ人間だったんだ、と啓示のように閃きが降ってきた。


くるりの名曲は、神様が生み出したのではなく、
東京の灰色の空の下、雑踏の中、鬱屈した日常や騒音や郷愁の中で、
彼らが泥まみれになりながら、生み出したものだったのだ。
泥のような魂の底から、生身の素手で探り続け、
ついに掬い上げた石が、10年前の「東京」だった。
その石を、丹念に磨き上げ、息を吹き込み、懐で温め、
心臓で血を送り込み、光れ光れ、輝け輝け、と磨き続けた貴石なのだ。
だから、生きた目を持ち、私を見つめる。
だから、白夜に輝く星のように、強く輝き続けている。


純粋なものほど、輝く。
偽者は、最初はうまく輝くが、
光を放ち終えれば、いつしか消えてしまう。


彼らは、妥協しなかったのだと思った。
一度完成させたもの、自身を成功へ押し上げてくれた作品を、
更に、もう一度作り直す勇気を持ち続けたのだろう。
過去の輝きにしがみつかず、
過去の大切な大切な原石を、
更に輝く貴石へと生まれ変わらせる情熱を緩めることはなかった。


彼らが天才ではなく、人間でいることが、どんなことより素晴らしいと思った。
素晴らしくて、拙くも輝いている10年前の「東京」を泣きながら聴いた。
初めて彼らの曲を聴いたあの夜から、私も変化し続けてきたのだろう。
星のように輝き、透明で温もりのある二つの「東京」が、
私の中、まっすぐ一本の道で繋がった。
道は、こうして年月をかけて、丹精に人が創り出すものなのだと知った。


魂の泥から、ありふれた石ころを拾い上げて、
大切に手のひらに乗せ、それを眺めることから
創作の全ては、始まるのだろう。
自身の欠片を眺める眼差しは、情熱という愛情に満ちているだろう。
何の変哲もない石を磨きあげて、血と熱を注ぎ込み、
余分なものを削り取り、また削ぎ落とし、
純度が高く、光を集めてかためたような、美しい美しい石へ。
少しずつ少しずつ、石の欠片から貴石へと磨き上げ、
もっと輝け、さらに輝けと命を映し込む。

人の情熱と祈りと忍耐が、
拙くも力強い、唯一の貴石を創りあげるのかもしれない。


私の中の大切な一曲は、さらに輝きを増した。
今「くるり」の「東京」は、
昼に降る雨のようにありふれていて、
それでいて透明で、ひりつくように熱く、
恒星のように静かに、確かな輝きを放つ。



心の病気への理解を広げたく、ランキングに参加しています。
応援よろしくお願いします。
         
 a_04.gif にほんブログ村 メンタルヘルスブログへ

関連記事

日々日記 | comment(6) |


<<The Rifle On The Crossroad | TOP | 無味な飴玉>>

comment











管理人のみ閲覧OK


はじめまして 

最近度々お邪魔してます。

私は野外フェスで何度かくるりを見たことがありますが、「街」という曲を聞いた後、それまでに聞いた数曲を忘れちゃうほどの衝撃を受けました。特に最後の~この街は僕のもの~というフレーズが今も切なく耳に残ります。

2008/01/08 21:35 | あおい [ 編集 ]


 

「東京」のギターリフはインパクトがあり、耳に残ります。
自分にとって特別な曲ってありますよね。

わたしも美鳥さんと同じように好きな曲のデビュー当時の
Live映像とかをみることがありました。

やはり若くて今のほうがいいアレンジだなって思ったり、
若い荒削りさが魅力で今より味がでててかっこよかったり、
いろいろと思うことがあります。

けど全体的には洗練されてきた感がある
今の演奏がいいと思うほうが多いですね。

話しはずれますが、作者の曲へ込めた思いとか聞くと
それで好きになったりすることもあります(笑)

2008/01/08 23:12 | Yorke [ 編集 ]


>>あおいさん 

あおいさん はじめまして。
コメント、ありがとうございます。
度々足を運んでくださってるんですね。
とても嬉しいです。今後とも、どうぞよろしくお願いします。

「街」は、一言で言うとものすごい曲ですね。どこか狂気を孕んでいて、「京阪電車」に「スーパーマーケット」に「ミサイル」ですものね。彼の才能には感服します。野外フェスで「街」かぁ、と想像して、多分感動で鳥肌立つだろうなぁと思いました。それまでに聞いた曲を忘れてしまうほど、ていうあおいさんの言葉、分かる気がします。

あおいさんのブログ、時々拝見しています。お部屋のネーミングが素晴らしい!自分の過去の部屋を見るようで、懐かしい思いです(笑)一斉に片づけてらっしゃるのが、すごいです。過程を見る機会ってなかなかないと思います。片付けにかけるあおいさんの情熱に、エールを送ります。
またぜひ、お気軽にコメントください。
ありがとうございました。

2008/01/08 23:56 | 美鳥 [ 編集 ]


>>Yorkeさん 

音楽にお詳しいYorkeさんならではのコメントで、なるほど~と感心しました。あれは、「ギターリフ」って言うんですね。なんかかっこいいので「ギターリフ」って誰かに今度言ってみます(笑)
Yorkeさんは、洋楽をされてたそうですが、どんな曲がお好きなんでしょうか。ギターとか、弾けそうな雰囲気ですが、もしかして弾けるんでしょうか。だとしたら、ものすごい羨ましい。
私も、製作秘話とか、裏話、大好きです。曲より、どっちかっていうとそっちが好きなくらいです。曲にこめられた物語を知ると、聞こえてくるものが全然違ってきますよね。
10年前の「東京」は、確かに荒削りでした。今の方が洗練された分、ストレートに世界に入り込めて好きです。いろんな曲の、いろんな経過を見ていると、アーティストの哲学みたいなものまで見えてきて、音楽は楽しいなぁと思います。

風邪の具合は、いかがですか?
ブログで拝見してから、心配しています。タイミングといい、心にも影響することですから、どうぞお大事になさってください。
先はまだまだありますから、難しいかもしれませんが、どうぞお気楽に。
風邪、明日には治っているといいですね。

2008/01/09 00:07 | 美鳥 [ 編集 ]


管理人のみ閲覧できます 

このコメントは管理人のみ閲覧できます

2008/01/09 18:26 | [ 編集 ]


>>鍵コメさん 

さっそく拝見しました。
ありがとうございます。
何度でも泣ける自分が不思議です。
岸田さんの喋り方が、すごく好きなんです。
一切、媚びないし妥協しないですよね。
いいものを見せていただきました~
至福の時間でした。
ありがとうございます。
あとで、そちらに遊びに行きます。
ひとまず、お疲れさまでした!

2008/01/09 22:15 | 美鳥 [ 編集 ]


| TOP |

プロフィール

美鳥(みとり)

Author:美鳥(みとり)
被虐待サバイバー。解離性同一性障害、うつ病、対人恐怖症ほか色々闘病中。境界性パーソナリティ障害寛解しました。毎日の光と影を綴ります。生育歴・来歴・病歴・活動はこちらをご覧下さい⇒<はじめに Profile>

講演活動・ユーストリーム放送しています。
講演のご依頼ご相談は、当ブログメールフォームからお願い致します。

診断名の有無に関わらず、生き辛さを抱える方々と温かい繋がりを目指しています。ご感想ご意見など、お気軽にどうぞ。お待ちしています。

最近の記事

最近のコメント

カテゴリー

月別アーカイブ

QRコード

QR

ブログ内検索

リンク

このブログをリンクに追加する

RSSフィード

メールフォーム 

お気軽にメールください。返信までお時間頂く場合があります。

名前:
メール:
件名:
本文:


上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。